(株)岩波書店『岩波書店八十年』(1996.12)

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月日 事項 年表種別
大正2年(1913) 8月5日 創業開店―岩波書店と命名。主として古本を販売し、同時に新刊図書・雑誌をも扱う。〈岩波書店〉という看板の字は、夏目漱石の書であった。当時、古本はもちろん新刊も客に値切られれば割引く習慣であったが、岩波書店は当初からいっさい正札販売とした。これは非常に抵抗の多いことであったが、ついにやり通したため、古本と新刊とを問わず、一般に書籍販売に定価販売の良習慣を作るに至った。店員4人、その他教職時代の生徒知人等が手伝った。素人の商売であったから、夜おそくまで働くことがしばしばであった。//開店挨拶状には“人の子を賊ふことをおそれて一市民の生活を始める”旨を告げ、また、“従来買主として受けし苦き経験に鑑みあくまで誠実真摯なる態度”を以て努力すると書いて、それに日ごろ愛誦した七つの格言をつけた。―桃李云はざるも下自蹊をなす/低く暮し高く想ふ/天上辰星の輝くあり我衷に道念の幡るあり/此地尚美し人たる事亦一の喜なり/正しき者に患難多し/正しかる事は永久に正しからざるべからず/正義は最後の勝利者なり。 岩波書店
大正3年(1914) 9月20日 夏目漱石《こゝろ》刊―著者の自費出版の形で発行されたが、岩波書店の出版活動としては、これが処女出版とみなされる。装幀は漱石、1916年著者の死去まで利益分配の方法で清算が行われていたが、その後は普通の印税関係となった。 岩波書店
大正6年(1917) 1月26日 夏目漱石《明暗》刊―〈明暗〉は朝日新聞に連載され、第188回までつづいたが、著者の死去によって中絶した。歿後すぐに単行本としての刊行に着手し、この日に実現された。 岩波書店
大正7年(1918) 5月23日 広重画《保永堂板東海道五十三次》の予約開始―木版刷、全60枚。編纂監督:橋口五葉。毎回5枚ずつ発行し、1919年4月完結した。編者橋口五葉氏はその兄橋口貢氏とともに夏目漱石氏の知遇をえた人、《吾輩は猫である》等の装幀はこの人の手に成った。 岩波書店
昭和6年(1931) 10月 岩波文庫に整理番号を記入した分類別の帯を付す―刊行点数が300点をこえたので、読者の選択の便をはかり、各部門別に色紙の帯をかけて分類し、また書店の陳列・補充の便宜のため整理番号を付することにした。//1. 黄色帯(1~1000)、国文学。1番、《万葉集》上巻。//2. 緑色帯(1001~2000)、現代日本文学(小説・戯曲・詩・随筆・評論)。1001番、夏目漱石《こゝろ》。//3. 赤色帯(2001~3000)、外国文学。2001番、トルストイ《戦争と平和》第1巻。//4. 青色帯(3001~4000)、自然科学・哲学・宗教・教育・美術・歴史。3001番、プラトン《ソクラテスの弁明・クリトン》。//5. 白色帯(4001~5000)、社会科学・法律・社会・政治・経済。4001番、スミス《国富論》上巻。 岩波書店
昭和15年(1940) 10月20日 陸軍恤兵部より岩波文庫、志賀直哉《小僧の神様》など20点、各5000部を実費で納入せよとの注文。納入総額2万6650円、納入価格は星一つにつき13銭(一般定価は20銭)であった。用紙は軍部から特別配給、すべて戦線の将兵に慰問品として配られた―その書目下記の通り。//夏目漱石《虞美人草》、徳冨健次郎《黒い眼と茶色の目》、徳田秋声《あらくれ》、泉鏡花《註文帳・白鷺》、永井荷風《おかめ笹》、志賀直哉《小僧の神様》、志賀直哉《万暦赤絵》、中勘助《銀の匙》、ハドスン《緑の館》、マーク・トウェーン《王子と乞食》、ウェブスター《あしながおぢさん》、ルドウィヒ・トオマ《悪童物語》、バルザック《知られざる傑作》、メリメ《コロンバ》、ドーデー《陽気なタルタラン》、ジョルジュ・サンド《愛の妖精》、フロベール《三つの物語》、プーシキン《大尉の娘》、アラルコン《三角帽子》、ヨハンナ・スピリ《アルプスの山の娘》。 岩波書店
昭和21年(1946) 6月8日 桜菊書院《夏目漱石全集》刊行開始。(のち出版権をめぐって問題となる)。 出版界
昭和22年(1947) - 前年より連合軍最高司令部民事検事局命令にもとづき事前検閲を受けた際一部削除された書目には下記のようなものがある//滝沢敬一《フランス通信》、山田勝次郎《米と繭の経済構造》、羽仁五郎《明治維新》、天野貞祐《道理の感覚》、野呂栄太郎《日本資本主義発達史》、斎藤茂吉《つゆじも》、田中耕太郎《教育と権威》、岩波茂雄〈岩波新書刊行の辞〉〈岩波全書刊行の辞〉、福沢諭吉《福翁自伝》、野村吉三郎《米国に使して》、プライス《近代民主政治》、アンデルセン《お話と物語集》、徳冨健次郎《みみずのたはこと》、内村鑑三《後世への最大遺物》、尾崎咢堂《回顧漫録》、小宮豊隆《夏目漱石》、安倍能成《自然・人間・書物》、ベーベル《婦人論》、内田清之助《渡り鳥》、大塚弥之助《山はどうして出来たか》、小倉金之助《日本数学史》ほか数点。 岩波書店
昭和25年(1950) 3月 問題となった夏目漱石著作物の商標権登録申請が却下され、著作権の消滅したものとして出版が自由になる。 出版界
昭和28年(1953) 2月 岩波文庫創刊以来の総刊行点数2000点、総発行部数約7500万冊となる―創刊以来25年、この間もっとも出品数の多かったもの10点をあげると次ぎの通りである。夏目漱石《坊つちやん》、島崎藤村《藤村詩抄》、夏目漱石《草枕》《こゝろ》、《古事記》、倉田百三《出家とその弟子》、島崎藤村《千曲川のスケッチ》、樋口一葉《にごりえ・たけくらべ》、徳冨蘆花《自然と人生》、ジイド《狭き門》―最近では年間を通じて出品部数の多いものが次ぎのように変ってきている。《日本唱歌集》、エンゲルス《空想より科学へ》、マルクス《共産党宣言》、《日本童謡集》、プラトン《ソクラテスの弁明》、西田幾多郎《善の研究》、夏目漱石《坊つちやん》、マルクス《賃労働と資本》、ブルフィンチ《ギリシア・ローマ神話》、ルソー《エミイル》。 岩波書店
昭和41年(1966) 5月30日 第17回定時株主総会開催―この期の売上高は前期に比し23%の増加を示した。この期、夏目漱石の生誕100年、歿後50年を記念して《漱石全集》を刊行したが、予想を上回る読者を得て、売上げに大きく寄与した。その他単行本・文庫・新書・少年文庫の伸びが著しかった。なお、この期の前半においては、生産がやや増大する兆が見えたが、その後適切な生産計画によって、売上高に大きな影響を与えることなく、在庫量の調整を予想どおり達成することができた。配当1割2分。取締役・監査役の任期満了につき改選の結果それぞれ重任。 岩波書店
昭和45年(1970) 1月13日 岩波書店一ツ橋本社ビル竣工―1929年10月、岩波書店は一ツ橋の旧東京商科大学の建物を取得し、玄関入口に夏目漱石筆による〈岩波書店〉の額を掲げた。そしてそれまでの南神保町の社屋は小売部とし、その他はここに移転した。その後、増築、周囲の建物の買取りにより事務所などは拡張したが、棟がわかれていること、木造建物が多いことなどから、防災・効率・環境上から、多くの問題が出て来た。1967年12月芦原義信氏に新社屋の設計を依頼、従来の社屋を図書室・研究室・一部の編集室とし、その北側に新ビルを建設した。1968年11月着工、地上7階、地下3階、延4900m2。所在地、千代田区一ツ橋2-5-5、設計芦原建築設計研究所、施工清水建設株式会社。 岩波書店
昭和54年(1979) 2月28日 ほるぷは日本リーダーズダイジェスト社が3月発売予定の《復刻初版本夏目漱石文学選集》の一部が、日本近代文学館・ほるぷの《名著復刻漱石文学館》から、そのまま無断で写真複製したものであるとし、東京地裁にリーダーズダイジェスト社版の販売差止めの仮処分を申請、〈版面権〉を主張。また《道草》《明暗》の初版本装幀者の津田青楓画伯の未亡人も著作権侵害である、と仮処分の申請を行った。さらに3月13日、日本近代文学館も申請。5月29日には漱石の初版本発行元の岩波書店・春陽堂書店も〈復刻権〉〈初版権〉を主張、販売差止めの仮処分を申請した。8月31日、東京地裁民事二十九部で和解が成立。日本リーダーズダイジェスト社は近代文学館製作・ほるぷ発売の復刻初版本からの復刻は一切行わず、すでに製作された9点9冊の復刻本1万1500セットは11月末かぎりで廃棄。なお岩波書店・春陽堂書店主張の初版本版元の〈復刻権〉も認められ、すでに著作権が消滅した図書の〈復刻権〉が裁判で認められたことによって世の注目を集めた。 出版界
5月29日 漱石初版本復刻裁判はじまる―岩波書店は、日本リーダーズダイジェスト社発行の《復刻初版本夏目漱石文学選集》のうち、《こころ》が、初版本の出版者(岩波書店)のもつ〈復刻権〉を侵害しており、また不正競争防止法第1条第1号第2号の不正競争行為にあたるとして、同書の印刷・製本・発売・頒布禁止の仮処分を東京地裁に申請。同日、春陽堂も《三四郎》《門》《それから》など6点について、仮処分申請を行った。これに先立ち、2月末以降、日本近代文学館・ほるぷは、このリーダーズダイジェスト社版が、近代文学館・ほるぷの《名著復刻漱石文学館》から無断で写真撮影した複製本であるとして販売差止めの仮処分を申請。他方、東京地裁は、津田青楓画伯夫人はま氏の申請をうけて、著作権侵害としてリーダーズダイジェスト社版《道草》《明暗》の装幀の増製・販売を禁止する仮処分決定を3月3日に下していた。//近年、文字オフセット印刷技術の進歩に伴い、複製本の刊行が広く行われているが、その際、原出版者の許諾を得ることは一般に慣例化している。日本近代文学館が、初版本復刻の事業に際し、原出版者の許諾を求めることを前提として、初版本の版面に加えて、表紙・見返し等の装幀から奥付や巻末の広告頁に至るまでそのまま複製することを事業の成立条件としたのに対し、リーダーズダイジェスト社は通告さえすれば、許諾は不要であるとの建前で事を進めてきた。//版面権は未だ法的には確立されていないが、初版本に限らず、他者の出版物を復刻する際には、著作権保護期間がすぎた著作物であると否とにかかわらず、原出版者の同意を得ることが出版界では広く行われており、その具体例は、岩波書店が裁判所に提出した事例に限っても60余件に及んでいる。//東京地裁民事二十九部(塚田渥裁判長)における審訊は7回に及び、8月31日裁判官の勧告により、日本近代文学館・ほるぷ・春陽堂・岩波書店の四者と、日本リーダーズダイジェスト社との間で和解が成立した。四者間で終始和解の基本条件として一致していたのは、原出版者の許諾なしに復刻刊行を行わないということであった。和解条項には〈......著作権の保護期間が満了していると否とにかかわらず、当該出版物を出版した第一次出版者又は当該出版物に係る出版事業の承継人が現に存続する限り、その許諾を受けることが出版業界で確立された慣習であり、したがって復刻について右第一次出版者又はその事業承継人はこれを許諾し又は拒否する権利を有する......〉と記され、復刻版刊行の有効な規範となった。 岩波書店
昭和56年(1981) 7月7日 渡辺蔵相、新紙幣発行(1984.11.1)を発表。図柄福沢諭吉・新渡戸稲造・夏目漱石。 内外事情
昭和58年(1983) 5月27日 《岩波文庫101》発売―若い人々のために、岩波文庫から選りすぐりの古典的作品82点101冊に、新しくカバーをつけて発売した。各冊分売であるが、全冊をセットとして合計定価3万5650円で販売、そのセットには特装読書手帖1冊をそえ、またカバーに印刷されているシール10枚で、特製ブックカバーを進呈した。同時に全書目に解説を付した小冊子《岩波文庫101》(新書判48頁、非売品)を作製、読書指導の手引きとして全国の中・高希望校に贈った。//書目一覧―森鴎外 ウィタ・セクスアリス/夏目漱石 吾輩は猫である全2冊/田山花袋 東京の三十年/島崎藤村 破戒/樋口一葉 にごりえ・たけくらべ/泉鏡花 高野聖・眉かくしの霊/寺田寅彦 随筆集全5冊/志賀直哉 小僧の神様/石川啄木 ROMAZI NIKKI/芥川竜之介 羅生門・鼻・芋粥・偸盗/宮沢賢治 風の又三郎/太宰治 富嶽百景・走れメロス/与田準一編 日本童謡集/伊藤整 近代日本人の発想の諸形式/中原中也 詩集/小堀杏奴 晩年の父/小熊秀雄 詩集/魯迅 評論集/郭沫若 歴史小品/老舎 駱駝祥子/知里幸恵編訳 アイヌ神謡集/ソポクレス オイディプス王/シェイクスピア ヴェニスの商人/スウィフト ガリヴァー旅行記/ブルフィンチ ギリシア・ローマ神話/ラフカディオ・ハーン 怪談/サキ傑作集/オーウェル評論集/マーク・トウェイン 不思議な少年/ビアス いのちの半ばに/オー・ヘンリー傑作選/フーケー 水妖記/ヘルマン・ヘッセ デミアン/シュテファン・ツワイク マリー・アントワネット全2冊/ベルトルト・ブレヒト ガリレイの生涯/モリエール タルチュフ/ラ・フォンテーヌ 寓話全2冊/スタンダール 赤と黒全2冊/デュマ 三銃士全2冊/ジョルジュ・サンド 愛の妖精/ルナアル にんじん/ロマン・ロラン ベートーヴェンの生涯/ゴーゴリ 外套・鼻/ドストエーフスキイ 罪と罰全3冊/トルストイ イワンのばか/ガルシン あかい花/チェーホフ 可愛い女・犬を連れた奥さん/ハイヤームルバイヤート/倉野憲司校注 古事記/芭蕉 おくのほそ道/一茶俳句集/町田嘉章・浅野建二編 日本民謡集/杉田玄白 蘭学事始/巌本善治編 新訂海舟座談/福沢諭吉 新訂福翁自伝/中江兆民 三酔人経綸問答/内村鑑三 後世への最大遺物・デンマルク国の話/大杉栄 自叙伝・日本脱出記/細井和喜蔵 女工哀史/柳田国男 遠野物語・山の人生/和辻哲郎 古寺巡礼/橋本進吉 古代国語の音韻に就いて/日本戦没学生記念会編 きけわだつみのこえ/吉野源三郎 君たちはどう生きるか/金谷治訳注 論語/金子大栄校注 歎異抄/タキトゥス 年代記全2冊/アーネスト・サトウ 一外交官の見た明治維新全2冊/コロンブス航海誌/E.S.モース 大森貝塚/柴田治三郎編訳 モーツァルトの手紙全2冊/プラトン ソクラテスの弁明・クリトン/マルクス・アウレーリウス 自省録/ルソー エミール全3冊/ヒルティ 眠られぬ夜のために全2冊/H.ブラッドリ 英語発達小史/ヴェーゲナー 大陸と海洋の起源全2冊/ポール・ド・クライフ 微生物の狩人全2冊/イェーリング 権利のための闘争/J.S.ミル 自由論/エンゲルス 空想より科学へ/M.ウェーバー 職業としての学問。 岩波書店
11月8日 〈岩波書店創業70年記念の会〉を京都ホテルにて開催、参会者175名。続いて11月18日、東京帝国ホテルにて開催、参会者655名。それぞれの会の参会者に夏目漱石著袖珍本《こゝろ》《道草》《明暗》の復刻本を贈呈。 岩波書店
昭和59年(1984) 1月10日 夏目漱石著袖珍本《こゝろ》《道草》《明暗》復刻。発売、岩波ブックセンター信山社。 岩波書店
11月1日 日本銀行、15年ぶりに新札発行。1万円札(福沢諭吉)、5000円札(新渡戸稲造)、1000円札(夏目漱石)の3種。 内外事情
平成2年(1990) 4月16日 文芸カセット、三国一朗・朗読《夏目漱石・私の個人主義・現代日本の開化》発行。 岩波書店
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